
自身が運営する養成所『パフォーミング・アート・センター』でも多くの声優を指導されている名優・野沢那智さんが語る“声優道”を、3回に分けてお送りします!
のざわなち……1月13日生まれ。オフィスPAC代表。代表作はアニメ『新・エースをねらえ!』(宗形仁)、『ベルサイユのバラ』(フェルゼン)、『スペース・コブラ』(コブラ)など。洋画の吹き替えではアラン・ドロン、アル・パチーノ、ジェームス・ディーン、ブルース・ウィルスなど5000本を超える作品に出演。声優の養成所「パフォーミング・アート・センター」を運営。
パフォーミング・アート・センター公式サイト
何百人という人間が関わっているアニメは特に怖いですね
『0011ナポレオン・ソロ』のイリヤ役をやることになって、びっくりしたことがありました。収録を始めて4週目くらいだったかな。スタジオの周囲に女性ファンが、数え切れないくらいいるんですよ。今では考えられないことですが、スタッフがスタジオの中にまでファンを入れちゃったりしてね。当時は声だけの仕事は半人前の日陰者みたいに扱われていたのに、いきなり握手とサイン責めの日々ですから、みんなうれしかったんでしょうね。
それから声の仕事を本気でやる気になりました。アラン・ドロンやロバート・レッドフォードなど、延べ5000本を超えます。どうせなら、高校生のころ映画を見てあこがれていたジェームス・ディーンを演じてやめようと思っていたら、『エデンの東』と『ジャイアンツ』を演ることになっちゃった。まさか来るとは思わなかったんで驚きましたね。でも、二枚目だけじゃなくて、すごく体の大きなマッチョマンを演じたこともありますよ。最初は「どうやってこの声を出したらいいんだ」って真剣に悩みました。それで考えたのが、収録の前日にウィスキーを飲むこと。すると声がしゃがれて野太くなるんですよ。3時間もしゃべってると、嗄れすぎてカサカサになっちゃうんですけどね(笑)。
洋画の吹き替えをしていて思ったのは、これも外国の文化を伝える翻訳文化の一端だなということですね。子供のころからハヤカワ・ミステリーが好きで、小説から外国文化などいろいろなことを教わったんですが、そういう意味では洋画も同じですよね。だからこそ、その作品が何を伝えたいのか理解して、きちんと演じないと申しわけないじゃないですか。そのころ映画評論家の淀川長治さんから「映画ファンのいない国は文明国じゃない」という話を聞いて、吹き替えも大切な仕事なんだと再確認しました。
アニメでもそうです。どんな作品が作りたいのか、ちゃんと理解してから演じないと。セリフがヘタだと絵まで殺しちゃう。俳優が演じている洋画と違って、静止画にちょっと手を加えて動いているように見せているだけなんですから、絵だけではインパクトが弱い。そこにセリフをしっかり入れると、絵がパーッと生きてくるんですよ。収録スタジオにいるのは10人くらいですが、絵ができあがってくるまでに何百人という人間が関わっているんです。ストーリーを考えて、絵を描いて、撮影して、最後にセリフを収録するわけですよ。これでヘタな演技をしたら、全てがぶち壊しですから、アニメは特に怖いですね。
正確にいうとアラン・ドロンを演じているわけじゃないんです

多忙な中、日俳連の理事も務める野沢氏(左)。
今までいろいろな役を演じてきましたが、何が自分の魅力なのかわからないんですよ。『新・エースを狙え!』『ベルサイユのばら』などでお世話になった監督の出崎統さんに、「どうして僕なの?」と聞いたことがあるんですよ。そうしたら「他にいなかっただけだ」って言われちゃって(笑)。運がよかっただけとしか思えないんです。
ただ、二枚目を演じるときには、できるだけ美しい日本語を使うように心がけましたね。例えば、アラン・ドロンは、実際にはすごく低い声なんです。一度、ディレクターも交えて冗談で、声を同じくらい低くして演じてみたこともあるんですけど、まったく外見のイメージと合わないんですよ。それなら、アラン・ドロンの顔つきや体つきからイメージされる、甘さのある柔らかい雰囲気に合わせようということになりました。二枚目という端正な魅力を生かすには、汚い日本語では絶対に成立しないと思います。
だから正確にいうと、アラン・ドロンを演じているわけじゃないんです。彼が映画の中で役を通して表現したかったことを、日本語で表現している。そのためには、とにかく何回も絵を見ないとダメですね。最初は台本を読んで、どんな演技をしたらいいか考える。大体わかってから、初めて絵を見るんですが、できれば2回は見たいですね。そうすると、台本を読んで自分が考えた演技と、実際に役者がしている演技と全く違う場合があるんです。「ああ、こういった演じ方もあるのか」と勉強になります。やはり、いかに台本をよく読みこむかが大切です。
声優という言葉は、あまり使わないようにしてるんです。まず俳優であれ。若い人には、自分の体で表現できる、心をとらえられる役者になれといっています。その結果、声の仕事が主になってもいい。いくら絵とセリフを合わせる技術が身についても、セリフから背後に流れる心の動きや人間性が伝わってこなかったら、ドラマとして成立しません。そのためには、自分の中にある引き出しを、できるだけ多くもってほしいですね。どこからどんな役がきても大丈夫といえるくらいにならないと。アニメが好きでたくさん見るのもいいですが、本もいっぱい読んでほしい。自分流を生み出すためには、あらゆる方法で自分の感性を鍛える必要があると思います。
野沢那智の声優道
第2回 声優になるには①~声優の前に、俳優であれ!~
第3回 声優になるには②~技術と感性を兼ね備えた演技者を目指そう~
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柴田秀勝の声優道


