野沢那智の声優道

自身が運営する養成所『パフォーミング・アート・センター』でも多くの声優を指導されている名優・野沢那智さんが語る“声優道”を、3回に分けてお送りします!

のざわなち……1月13日生まれ。オフィスPAC代表。代表作はアニメ『新・エースをねらえ!』(宗形仁)、『ベルサイユのバラ』(フェルゼン)、『スペース・コブラ』(コブラ)など。洋画の吹き替えではアラン・ドロン、アル・パチーノ、ジェームス・ディーン、ブルース・ウィルスなど5000本を超える作品に出演。声優の養成所「パフォーミング・アート・センター」を運営。
パフォーミング・アート・センター公式サイト

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技術と感性を兼ね備えた演技者を目指そう

ラジオの第1回の放送では自分が無口だということを知りました

 TBSさんから「深夜放送のパーソナリティをやらないか」と声がかかったときは、決死の覚悟だったんですよ。アテレコや吹き替えの仕事は、きちんとした台本があるじゃないですか。でもラジオの台本なんて何もない。CMタイムと曲名が3曲だけ。台本なしで2時間もしゃべるなんてとんでもないと思ってた。そのころは、吹き替えも収録スタジオでもみんなの雑談に入れなかったくらい、恥ずかしがり屋だったんですよ。第1回の放送では真っ青になりましたね。自分でも何をしゃべったのか覚えてない。気がついたらCMになっていて、自分が無口だということを初めて知りました(笑)。自分をさらけださなきゃいけないのに、いざとなると言葉が出てこない。自分がいかにモノを知らないかがよくわかって、放送が終わったあとは自己嫌悪で、シラフでは帰れませんでした。いい勉強になりましたよ。ところが、3ヶ月という契約だったはずなのに、ディレクターさんから「面白いから続けませんか。手紙が山ほどきてるから、その朗読ならできるでしょ」といわれて、それで15年続いちゃった。あれは自分ががんばったというよりは、手紙を書いてくれた人たちのおかげですね。手紙が本当に面白かったんですよ。どれも面白くて、選ぶのに苦労しました。
 今までずっと、周囲に支えられてやってきたという感じですね。たとえば「こんなことがやりたいな」って思っていると、そういう仕事がくる。クラシック音楽が好きなんで、ポロッと「ラジオだったらクラシック音楽を紹介する番組がやりたいな」と言ったら、本当にそういう仕事がきちゃった。もっともその番組を担当しているうちに内容が変わってきて、ポップスが中心になって、そのうち終わっちゃいましたけどね。長くやっていると、たまにはそういう失敗もあります(笑)。
 でも、洋画にしろ、アニメにしろ、ラジオのトークにしろ、自分の心が入っていないことはないです。たった一言のセリフでも、自分の感情としてしゃべってやらないと、ただの嘘っぽいセリフになっちゃう。俳優は「いかに自分を騙せるか」なんです。台本に書いてあるセリフなんてしょせんは他人事ですからね。それをいかに自分のことのように思い込めるか。よく「いろんな声が出るんですね」って言われますけど、声やしゃべり方なんてそんなに変わるもんじゃないですよ。実際にテープに録って流したら、自分の声にしか聞こえない。でも、自分がその役になりきってしまったと錯覚するくらいに感情移入ができていると、説得力をもって響いてくるんです。

 

技術と感性の両方がそろわなければ演技はできないんです

野沢那智 写真3
パフォーミング・アート・センターの授業にて、
生徒に熱血指導中の野沢氏。

 放送の仕事っていうのは、顕微鏡で覗かれるみたいなもので、一言でも発音が怪しかったらNGなんです。とにかく滑舌だけは絶対によくなくちゃいけないんですけど、僕はちゃんとした基礎トレーニングを受けたことがない。困ったなーと思って考えたのが、クラシック音楽を口で歌うことです。トランペットならトランペットの音、チェロが鳴ったらチェロの音、全部を口真似して一曲まるごと歌うんです。これはいい訓練になりました。発音だけじゃなくて、発声のトレーニングもできる。音を真似するために、口はどう開けるのか、舌はどう使うか。ノドが苦しくなったら、それは発声が悪いんです。自己流なんだけど、他にもやっている人がいるのを知って「あ、間違ってなかった」と思いましたね。今の若い人は、キャラクターの表現ばかりに目がいって、基礎トレーニングは疎かになっている。感情表現を伝えるための技術をもっているからプロ。その訓練は死ぬほどやらなきゃダメ。技術と感性の両方がそろってなければ、演技はできないんです。まず体の機能をしっかり覚えること。極端にいうと、技術を開発していくことで「こういう表現の可能性もあるんsだ」という新たな感性が生まれることもあるんです。技術が貧しいと、感性も小さくしぼんでしまいます。あと、日本語を大事にしてください。時代とともに日本語も変わっていきますけど、日本語の持っている響きの美しさや、表現の豊かさに気づいてほしいですね。
 演技するためには、あらゆるジャンルの知識が必要です。みんな普段からしゃべっているので、演技なんて誰でもできそうに思うんです。その誰でもできることでお金をもらうんだから、それだけの技術や表現力がなければダメ。ナチュラルにしゃべればいいってもんじゃない。演技は経験の積み重ねですから、人生の無駄遣いをいっぱいしないと、人間らしい厚みのあるセリフは出てきません。若いときは吸収するときだから、いろいろなことを貪欲に学んでほしいですね。人によって世の中に飛び出す時期は違いますから、あせらずじっくり構えたほうがいいんじゃないでしょうか。早くデビューしようとすると、自分の中に溜めがないからつぶれる。たとえ下積みが続いていても、志は高くもって、技術と感性を兼ね備えた、しっかりした演技者になってください。